企業が市場で活動する際、その中心に位置するのが「製品」である。製品は単なる物ではなく、企業活動と社会の需要を結びつける重要な媒介であり、企業の存在理由そのものともいえる。本稿では、経営学やマーケティングの基礎概念である「製品概念」について、財・商品との違い、新製品の定義、そして製品を取り巻く環境の変化という観点から体系的に解説する。
1 財・商品・製品の基本概念
経済学では、人間にとって何らかの価値をもつものを**財(goods)**と呼ぶ。ここでいう価値とは、必ずしも現時点で価格がついていることを意味するものではなく、経済的な価値を持つ可能性があるものも含まれる。財は大きく次の二種類に分けられる。
① 有形財
物理的な形を持つ財である。さらに以下の二つに分かれる。
- 自然物(天然物)
例:水、鉱物、森林資源など - 人為的な製造物(製作物)
例:自動車、家電製品、衣服など
② 無形財
物理的形態を持たない財である。例えば、ソフトウェア、教育、医療、金融サービスなどは無形財の典型である。
- 情報
- 知識
- サービス(用役)
このような多様な財のうち、企業が営利目的で販売するものを商品という。つまり商品とは、単に存在する財ではなく、市場で交換されることを前提とした財なのである。さらに、商品となる財のうち、特に有形の製造物である場合を製品と呼ぶ。つまり次の関係になる。
財 → 商品 → 製品(有形製造物の場合)
このように考えると、製品とは
- 製造された物であり
- 市場で販売される商品でもある
という二重の性格を持つ存在であることが理解できる。
2 製品の二重性―― 技術と市場の評価
製品は「製造物」と「商品」という二つの側面を持つため、その評価基準も二種類存在する。
① 技術的評価(製造物としての評価)
製品がどれほど優れた技術で作られているかという評価である。
例:
- 高性能
- 高耐久
- 高精度
- 高品質素材
これは主に技術者や製造部門の視点で行われる評価である。
② 経済的評価(商品としての評価)
製品が市場でどれほど価値を持つかという評価である。
例えば
- 価格
- ブランド
- 利便性
- デザイン
- 消費者の需要
などが重要になる。この二つの評価は、必ずしも一致するとは限らない。つまり
優れた製造物が、必ずしも売れる商品になるとは限らない
のである。
実際、企業史にはこのような例が多く存在する。
例えば
- 技術的には非常に高度だが価格が高すぎる製品
- 消費者が必要としていない機能を大量に搭載した製品
などは、市場で失敗することがある。このような状況はしばしば**過剰技術(オーバースペック)**と呼ばれる。企業内部では、この問題は製造部門と販売部門の対立として現れることが多い。
- 製造部門:技術的に優れた製品を作りたい
- 販売部門:売れる製品を作りたい
この二つの視点が調整されない場合、企業経営に重大な問題が生じる可能性がある。企業の最終目標は、あくまでも利益の獲得である。したがって製造物としての優秀さは、商品価値に転化されて初めて意味を持つのである。
3 製品の商品化プロセス
製品は最初から商品として存在するわけではない。通常は次のような段階を経て市場に登場する。
① 技術開発段階
研究開発によって技術が生み出される。
② 製品化段階
技術を具体的な製造物として形にする。
③ 商品化段階
市場で販売できる形に整える。
この商品化には
- ブランド設定
- 価格決定
- 販売チャネル構築
- マーケティング戦略
などが含まれる。
商品化が完了すると、製品は販売部門へ移管され、商品として市場で取引されることになる。
したがって実務では
- 製品
- 商品
という言葉がほぼ同義語として使われることも多い。
しかし厳密には
商品化前:製品
商品化後:商品
という区別が存在する。
4 新製品概念とは何か
企業経営において最も重要なテーマの一つが新製品開発である。しかし「新製品」とは何を意味するのか、その定義は必ずしも単純ではない。現実には「新製品」と呼ばれるものの中には、さまざまな種類が存在する。このため、新製品の概念を整理する際には次の三つの基準が用いられる。
- 新しさの程度
- 新しさの観点
- 新しさの局面
5 新しさの程度による分類
まず、新製品を新規性の程度によって分類する方法がある。一般的には次の三段階で整理される。
① 旧製品(既存製品)
市場にすでに存在している従来型の製品である。
② 改良製品(新型製品)
既存製品に対して
- 性能改善
- デザイン変更
- 機能追加
などの改良が施されたもの。
③ 新製品(新規製品)
これまで存在しなかった新しいタイプの製品。
例えば
- スマートフォンの登場
- デジタルカメラ
- 電気自動車
などは、登場当初は新製品といえる。
しかし、この区分はあくまで連続的であり、改良製品が新製品とみなされる場合もある。
6 新しさの観点(市場レベル)
同じ製品でも、どの視点から見るかによって新しさの評価は変わる。例えば次の三つのレベルが考えられる。
① 個別企業レベル
その企業にとって初めて製造する製品であれば新製品となる。
例
ある食品会社が初めて冷凍食品に参入する場合。
② 国内業界レベル
国内市場に初めて登場した製品。
③ 国際業界レベル
世界で初めて登場した革新的製品。
例えば
- 世界初のスマートフォン
- 世界初の家庭用ビデオデッキ
などは国際業界レベルの新製品である。
しかし多くの場合、企業にとっては新製品でも、世界市場では既存製品であることが多い。
7 新しさの局面
さらに、新しさはどの側面で新しいかによっても分類できる。
① 物的な新しさ
製品そのものが新しい場合。
例
新しい素材や構造を持つ製品。
② 機能的な新しさ
機能や性能が新しい場合。
例
カメラ付き携帯電話。
③ 用途的な新しさ
用途が新しい場合。
例
既存技術を新しい分野に応用する。
例えば
- GPS技術 → カーナビ
- AI技術 → 医療診断
などが挙げられる。
このように、新製品の概念は非常に多面的である。
8 本当の意味での新製品
理論的に最も純粋な新製品とは
- 新規性の程度
- 観点
- 局面
のすべてにおいて完全に新しい製品である。
しかしこのような製品は非常に稀である。実際の経営では何らかの点で新しさがあれば新製品とみなすという広い定義が採用されることが多い。これは企業が
- 技術革新
- 市場競争
- 消費者ニーズ
に対応するために必要な柔軟な考え方である。
9 製品環境―― 企業と社会の接点
企業の目的は利益の獲得である。しかし企業は社会の中で活動している以上、需要を満たすことによってのみ利益を得ることができる。この意味で製品は企業と社会を結ぶ接点である。
企業が提供する製品が社会の需要に適合しない場合、その企業は存続することができない。しかし需要は常に変化する。この需要変動の背景には、主に次の三つの環境が存在する。
- 経済環境
- 社会文化環境
- 技術環境
10 経済環境の変化
高度経済成長期には、生活必需品の需要が急速に拡大した。企業は大量生産によってこの需要に対応することができた。しかし現代では
- 人口減少
- 市場の成熟
- 国際競争
などの影響により、需要の成長は鈍化している。
その結果
- 企業間競争の激化
- 新市場の開拓
が重要な課題となっている。
11 社会文化環境の変化
現代社会では、消費者の価値観が大きく変化している。主な要因として
- 高学歴化
- 余暇時間の増加
- 所得水準の上昇
などがある。その結果、消費者の需要は生活維持 → 生活の質へと変化している。これにより企業は
- 多品種少量生産
- 個別ニーズへの対応
を求められるようになった。
12 製品ライフサイクル
製品には寿命がある。これを製品ライフサイクルという。一般的に製品は
1 導入期
2 成長期
3 成熟期
4 衰退期
という段階を経る。
現代の特徴はライフサイクルが短くなっていることである。技術革新や市場競争の激化により、新しい製品が次々と登場するためである。企業はこの短期化したライフサイクルに対応する必要がある。
13 技術環境と研究開発
製品にとって最も重要な要素の一つが技術である。現代では技術革新の速度が非常に速くなっており、企業は研究開発(R&D)への投資を欠かすことができない。研究開発には
- 巨額の資金
- 長い時間
- 高いリスク
が伴う。
しかし技術を制する企業は、競争優位を確立することができる。このため多くの企業が研究開発を将来の成長を測る指標として重視している。
14 企業内部の変化―― シーズからニーズへ
かつての製造業では、企業活動は製造部門主導であった。つまり「作れるものを作る」という発想である。しかし現代では販売部門主導の経営が求められる。これはシーズ(技術)中心 → ニーズ(需要)中心への転換である。
企業は
- 市場の需要
- 消費者の価値観
を理解した上で製品開発を行う必要がある。
まとめ
製品とは単なる製造物ではなく、
- 技術
- 市場
- 社会
の三つの要素が交差する存在である。製品は
- 財としての価値
- 商品としての価値
という二重性を持ち、その成功は技術だけではなく市場との適合によって決まる。また現代では
- 需要の多様化
- 技術革新
- 市場競争
などの環境変化により、新製品開発の重要性はますます高まっている。企業が持続的に成長するためには、社会の変化を敏感に読み取り、技術と市場を結びつけた製品戦略を構築することが不可欠なのである。
