Contents

1. ネットワーク産業の特徴――規模が大きくなるほど価値が高まる

ネットワークは、利用者同士をつなぐことで価値を生む

電話、コンピューターのOS、ソフトウェア、インターネットを利用したサービスには、一般的な商品とは異なる特徴があります。それは、利用者や接続先が増えるほど、サービスそのものの価値が高まる場合があるということです。

たとえば、電話を一人だけが持っていても、ほとんど役に立ちません。二人が電話を持てば互いに通話でき、利用者が増えれば、連絡できる相手も増えます。電話の価値は、端末そのものの性能だけで決まるのではなく、誰とつながれるかによって大きく変わります。

このように、ある製品やサービスの利用者が増えることによって、その製品やサービスを利用する人々の便益が高まる現象を、ネットワーク外部性またはネットワーク効果と呼びます。

一般的な商品では、購入者が増えたからといって、すでに購入した人の商品の価値が直接高まるとは限りません。しかし、ネットワーク効果のある商品では、ほかの利用者の選択が自分の便益にも影響します。ここに、ネットワーク産業を理解するうえでの重要な特徴があります。

入門・産業組織.pdf

直接的なネットワーク外部性と間接的なネットワーク外部性

ネットワーク外部性には、代表的な二つの形があります。

直接的なネットワーク外部性は、同じネットワークに参加する利用者が増えることで、利用者同士のつながりが増え、便益が高まる現象です。電話やメッセージサービスが典型例です。連絡したい相手が同じサービスを使っていなければ、そのサービスの利便性は限られます。

これに対して、間接的なネットワーク外部性は、ある製品の普及によって、その製品と組み合わせて利用する補完的な製品やサービスが増え、使いやすさが高まる現象です。

たとえば、コンピューターのOSが広く普及すると、そのOSに対応するアプリケーションやソフトウェアを開発する企業が増える可能性があります。利用者は多くのソフトウェアを使えるようになり、OSの魅力が高まります。さらに利用者が増えれば、ソフトウェア開発企業にとっても、そのOS向けに製品を開発する価値が高まります。

この関係は、次のような循環を生みます。

利用者が増える

対応する製品・サービスが増える

利便性や魅力が高まる

さらに利用者が増える

利用者と補完製品が互いに普及を後押しする循環

こうした循環が強く働くと、初期段階では小さな差しかなかった製品同士が、時間の経過とともに大きく異なる市場シェアを持つことがあります。製品の品質だけでなく、すでにどれだけ利用者や補完製品が集まっているかが、競争の結果を左右するのです。

2. ネットワーク外部性と競争政策――優れた製品が勝つとは限らない

普及した製品が、さらに有利になる

ネットワーク効果が強い市場では、利用者が多い製品が、さらに多くの利用者を集めやすくなります。その結果、少数の企業に需要が集中し、場合によっては一社が市場の大部分を占めることがあります。

たとえば、あるOSが広く普及すると、ソフトウェア開発企業は、そのOSに対応する製品を優先的に開発するようになります。利用者は利用可能なソフトウェアが多いOSを選びやすくなり、さらにそのOSの利用者が増えます。後発のOSが技術的に優れていたとしても、対応ソフトウェアや利用者が少なければ、普及させることは容易ではありません。

このような市場では、競争の初期に獲得した利用者基盤が、後の競争で大きな優位性になります。品質や価格だけでなく、互換性、利用者数、補完製品の豊富さが競争力を左右するからです。

「勝者総取り」が起こりやすい理由

ネットワーク効果が強く、製品同士の互換性が低い市場では、需要が一つの製品に集中しやすくなります。いわゆる「勝者総取り」に近い状況です。

ただし、ネットワーク効果があれば必ず独占が成立するわけではありません。利用者が複数のサービスを併用できる場合や、異なる製品間でデータや機器を相互に利用できる場合には、複数の企業が共存する余地があります。技術革新によって新しい製品が既存製品を上回る可能性もあります。

それでも、ネットワーク効果が強い市場では、いったん大きな利用者基盤を獲得した企業が有利になりやすく、後発企業が参入して競争することが難しくなる場合があります。

独占は、企業の不公正な行為がなくても生まれる

通常、独占や市場支配力の問題を考えるときには、企業による価格操作や競争相手の排除などが注目されます。しかし、ネットワーク効果のある市場では、企業が明確な競争阻害行為を行わなくても、利用者の選択が集中することによって独占的な地位が形成される場合があります。

広く普及した製品を選ぶことは、利用者にとって合理的な判断かもしれません。利用者は、対応ソフトウェアの多さや、ほかの人との互換性を重視して製品を選びます。一人ひとりが合理的に選択した結果、特定の企業に需要が集中することがあるのです。

ここで競争政策は難しい問題に直面します。市場支配力が大きいという理由だけで介入すれば、利用者にとって便利なネットワークの形成や、企業が普及を目指して行う投資を妨げる可能性があります。一方、何も対応しなければ、後発企業が市場に参入できず、将来の技術革新や価格競争が弱まるおそれがあります。

したがって、競争政策では、企業が成功した理由と、現在の市場支配力を利用して競争を不当に制限しているかどうかを区別することが重要です。

入門・産業組織.pdf

3. ボトルネック独占――競争したくても通れない場所がある

ネットワーク産業では、設備を持つ企業が競争の鍵を握る

ネットワーク産業では、利用者が増えることによる需要側の効果だけでなく、サービスを提供するために必要な設備の構造も、競争を左右します。

通信、電力、鉄道などの産業では、サービスを提供するために、通信回線、送配電網、線路といった大規模なインフラが必要です。こうした設備を新たに建設するには、多額の投資や長い時間が必要になります。同じ地域に複数の設備を重複して整備することが、経済的に非効率な場合もあります。

そのため、サービスを提供するために欠かせない設備を一つの企業が保有し、その設備を利用できなければ他社が事業を展開できないという状況が生まれます。これがボトルネック独占の問題です。

たとえば、新しい通信サービスの提供企業が登場しても、利用者に接続するための基幹設備を既存企業が独占していれば、新規企業はその設備を利用しなければサービスを提供できません。設備を保有する企業が接続を拒否したり、非常に高い接続料金を設定したりすれば、形式上は参入の自由があっても、実際の競争は難しくなります。

エッセンシャル・ファシリティ理論とは何か

競争を成立させるうえで不可欠であり、ほかの企業が容易に複製できない設備は、**エッセンシャル・ファシリティ(不可欠施設)**と呼ばれます。

エッセンシャル・ファシリティ理論は、不可欠施設を保有する企業が、その施設へのアクセスを拒否することで競争を妨げている場合に、一定の条件のもとで他社による利用を認める必要性を考える理論です。

ここで重要なのは、単に競争相手が設備を持っていないからといって、必ず共有を義務づけるわけではないことです。設備の複製が本当に困難なのか、利用を認めることが技術的・経済的に可能なのか、共有を求めることで設備保有者の投資意欲が損なわれないかなどを検討する必要があります。

不可欠施設へのアクセスを認めれば、新規企業は設備建設の巨額な費用を負担せずにサービスを提供できる可能性があります。一方、設備を整備した企業が投資の成果を得られなくなれば、将来の設備投資が抑制されるかもしれません。

したがって、不可欠施設をめぐる問題は、既存企業の独占を制限することと、設備の維持・更新に必要な投資を確保することの両立にあります。

4. アクセス・チャージ――設備の利用料金をどう決めるか

共有を認めても、料金が高すぎれば競争できない

不可欠施設へのアクセスを認める場合、次に問題となるのが利用料金です。既存企業の設備を利用する新規企業が支払う接続料金などを、アクセス・チャージと呼びます。

たとえば、通信サービスの新規企業が既存企業のネットワークを利用する場合、接続料金を支払わなければなりません。この料金が適切であれば、既存企業は設備の維持に必要な収入を確保でき、新規企業もサービスを提供できます。

しかし、アクセス・チャージが過度に高ければ、新規企業は利用者に競争力のある料金を提示できません。設備の利用を形式的には認めていても、高い接続料金によって競争を実質的に妨げることができてしまいます。

反対に、アクセス・チャージが低すぎれば、設備の建設や保守、更新に必要な費用を回収できなくなる可能性があります。既存企業が負担した投資費用を十分に回収できない制度では、将来の設備整備が停滞するおそれがあります。

料金規制には、競争促進と投資確保の両面がある

アクセス・チャージを考える際には、少なくとも次の三つの観点が重要になります。

観点考慮すべき問題
競争の促進新規企業が参入し、利用者に魅力的な料金やサービスを提供できるか
費用の回収設備の建設、維持、保守、更新に必要な費用を確保できるか
投資の誘因設備を保有する企業が、将来の需要に備えて投資を続けられるか

アクセス・チャージの設定は、単純に安ければよいという問題ではありません。競争相手が設備を利用できるようにしながら、設備の整備や維持を続けられる料金体系を設計する必要があります。

この問題は、ネットワーク産業における競争政策の核心の一つです。競争を促進するための制度が、かえって投資意欲を弱めてしまわないようにすることが求められます。

5. ユニバーサル・サービス――採算が取れない地域にもサービスを届ける

競争が進むと、サービスの地域格差が生まれることがある

ネットワーク産業には、もう一つ重要な課題があります。それは、採算の取れる地域や利用者だけでなく、社会生活に不可欠なサービスを必要とする人々にも、サービスを提供し続ける必要があることです。

たとえば、人口の多い都市部では通信回線や交通サービスの利用者が多く、設備の維持費を多くの利用者で負担できます。一方、人口が少ない山間部や離島では、設備の建設・維持費に対して利用者が少なく、事業の採算を確保することが難しい場合があります。

競争が進むと、企業は採算性の高い地域や利用者に経営資源を集中させる誘因を持ちます。その結果、効率性は高まる一方、採算の取れない地域では料金が高くなったり、サービスの提供が縮小したりする可能性があります。

こうした問題に対応する考え方が、ユニバーサル・サービスです。ユニバーサル・サービスとは、居住地域や所得などにかかわらず、人々の生活に不可欠な一定のサービスを利用できるようにする考え方です。通信や郵便などが代表例として挙げられます。

効率性と公平性をどう両立させるか

ユニバーサル・サービスの課題は、競争による効率性の追求と、サービスを公平に利用できるようにすることの間に、緊張関係がある点です。

採算の取れない地域へのサービス提供を企業の自主的な判断だけに任せれば、利用者の少ない地域ではサービスが縮小するかもしれません。しかし、すべての地域に同じサービスを維持するために費用がかかるなら、その費用を誰が負担するかを決めなければなりません。

従来の通信事業では、採算の取れるサービスや地域から得られる利益を、採算の取れない地域のサービス維持に回す内部相互補助が用いられてきました。たとえば、収益性の高い通話サービスからの収入を、採算の悪い地域の通信網の維持に充てる仕組みです。

しかし、競争が進んで収益性の高い分野にも競争相手が参入すると、従来の内部相互補助を維持することが難しくなります。競争相手が収益性の高い顧客を獲得し、既存企業に採算の悪い地域の負担だけが残る可能性があるためです。

そのため、ユニバーサル・サービスを維持する方法として、補助金や基金などの仕組みが検討されます。重要なのは、サービスを維持する必要性を確認するだけでなく、必要な費用を適切に把握し、誰がどのように負担するかを明確にすることです。

入門・産業組織.pdf

ユニバーサル・サービスの費用をどう測るか

サービス維持に必要な費用を把握するためには、費用をどのように計算するかが問題になります。代表的な考え方に、**回避可能コスト法(NAC法)**があります。

回避可能コストとは、事業者がユニバーサル・サービスの提供義務を免除された場合に、サービスを廃止することで回避できる費用を意味します。たとえば、採算の取れない地域へのサービス提供をやめることが認められた場合、その地域の設備や運営にかかる費用のうち、実際に削減できる分を算定します。

ただし、費用を削減できるからといって、そのサービスが社会にとって不要だということにはなりません。費用の計測は、サービスを維持するために必要な財源を検討するためのものであり、サービスの社会的な価値や公平性の判断とは区別する必要があります。

入門・産業組織.pdf

6. ネットワーク中立性――ネットワークを管理する企業は、どこまで差をつけてよいのか

ネットワークの管理者は、情報の流れに影響を与えられる

ネットワークを保有・管理する企業は、利用者同士を接続するだけでなく、ネットワーク上でどのサービスが利用されやすいかにも影響を与える場合があります。

たとえば、インターネット接続を提供する事業者が、特定のコンテンツやアプリケーションを優先して扱い、競合するサービスの通信を遅くしたり、追加料金を求めたりすれば、利用者の選択やサービス提供企業間の競争に影響が及びます。

こうした問題に関係する考え方が、ネットワーク中立性です。一般に、ネットワークを管理する事業者が、ネットワーク上を流れる情報やサービスをどのように取り扱うべきかという問題を指します。

ネットワーク中立性を重視する立場では、通信事業者が自社と競合するサービスを不利に扱うことを防ぎ、利用者や新規企業が公平にネットワークを利用できることを重視します。一方、通信品質の管理や混雑への対応には技術的な必要性があり、すべての通信を常に同じように扱うことが適切とは限りません。

そのため、問題は単に差別的な扱いをすべて禁止すれば解決するというものではありません。ネットワークの安定性や効率的な運用を確保しながら、管理者がその立場を利用して競争を不当に制限することをどう防ぐかが重要になります。

ネットワーク中立性は、インフラを保有する企業の権限と、そのインフラを利用して事業を行う企業の競争機会との関係を考えるうえで、重要な論点です。

7. ネットワーク産業の競争をどう理解するか

競争政策は、価格だけを見ていては不十分

一般的な市場では、価格が下がり、品質が高まり、消費者がよりよい商品を選べることが、競争の成果として重視されます。しかし、ネットワーク産業では、それだけでは十分に理解できません。

利用者が増えることで製品の価値が高まるネットワーク外部性があり、設備の複製が難しいボトルネック独占があり、さらに採算性の低い地域へのサービス維持という社会的課題もあります。

これらは、互いに関係しています。ネットワーク効果によって市場支配力が強まる場合、競争相手が利用者を獲得する機会をどう確保するかが問題になります。不可欠施設を共有させる場合には、アクセス・チャージを通じて、競争促進と設備投資の誘因を両立させる必要があります。競争が進むことで採算の取れない地域のサービスが縮小するなら、ユニバーサル・サービスを支える費用負担の仕組みも求められます。

つまり、ネットワーク産業の競争政策は、単純に独占を解消することだけを目標にするのではなく、利用者の利便性、企業の競争機会、設備投資、サービスの公平な提供を組み合わせて考える必要があります。

ネットワーク産業は、技術と制度の両方で成り立っている

ネットワーク産業では、技術が市場構造を大きく左右します。利用者が増えるほど価値が高まる仕組みや、設備を重複して建設することが難しいという特徴が、企業の競争力や市場の集中度に影響します。

しかし、市場の結果は技術だけで決まるわけではありません。設備へのアクセスを認める制度、接続料金の設定、ユニバーサル・サービスの費用負担、ネットワークの利用ルールなどによっても、競争のあり方は変わります。

そのため、ネットワーク産業を理解するには、企業がどのように競争しているかだけでなく、競争の土台となるインフラを誰が所有し、誰が利用でき、どのようなルールで運営されているかを考えることが欠かせません。

8. まとめ――ネットワークの価値を育てながら、競争の機会を守る

ネットワーク産業には、利用者が増えるほどサービスの価値が高まるネットワーク外部性という特徴があります。この効果は、利用者や補完製品の増加を促し、製品の普及を加速させます。一方で、利用者基盤を獲得した企業に需要が集中し、競争相手の参入が難しくなる可能性もあります。

さらに、通信網や鉄道網などの不可欠なインフラを一つの企業が保有している場合、その企業が設備へのアクセスを制限することで、競争が妨げられることがあります。不可欠施設へのアクセスやアクセス・チャージの設定は、競争を促すことと、設備投資を維持することの両方を考慮して設計する必要があります。

また、競争が進むことで採算性の低い地域のサービスが縮小する可能性があるため、ユニバーサル・サービスを維持するための費用負担も重要になります。ネットワーク中立性も含め、ネットワークを管理する企業の立場と、利用者やほかの事業者の利益との調整が求められます。

ネットワーク産業の核心にあるのは、ネットワークが生み出す利便性を拡大することと、そのネットワークを利用した競争の機会を確保することを、どのように両立させるかという問題です。企業の市場シェアだけを見るのではなく、利用者同士のつながり、設備の所有構造、料金制度、サービスの公平性まで視野に入れることで、ネットワーク時代の産業競争をより深く理解できます。