工業経営において、製品は単に工場で製造された物体を意味するわけではありません。企業が製品をつくるのは、技術的に優れたものを完成させるためだけではなく、それを必要とする人々に提供し、企業としての経済的成果を得るためです。
ここで重要になるのが、製品には「製造物」としての側面と、「商品」としての側面があるという考え方です。製造物として優れていても、消費者が必要としていなかったり、価格に見合う価値を感じなかったりすれば、商品として成功するとは限りません。逆に、技術的にはそれほど複雑でなくても、使いやすさや価格、デザイン、用途が顧客の求めるものに合っていれば、優れた商品になり得ます。
製品をめぐる問題は、工場の生産技術だけで解決できるものではありません。市場の需要、消費者の価値観、競争相手の動向、技術革新などを見きわめながら、何をつくり、どのように売るかを決める必要があります。
1. 製品は、製造物であると同時に商品でもある
財・商品・製品の違い
経済的な価値を持つもの、あるいは価値を持つ可能性があるものを広く「財」と呼びます。財には、機械や食品のような形のある有形財だけでなく、情報やサービスのような形のない無形財も含まれます。
そのうち、企業が営利目的で販売するものが「商品」です。そして、商品または商品となる財のうち、とくに有形の製造物が「製品」と呼ばれます。
| 概念 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 財 | 経済的な価値、または価値を持つ可能性があるもの | 自然資源、機械、情報、サービス |
| 商品 | 販売に供される財 | 店頭で販売される食品、衣服、ソフトウェアなど |
| 製品 | 有形の製造物であり、商品として提供されるもの | 自動車、家電、工具、工業用部品 |
この区別で重要なのは、製品が「つくること」と「売ること」の両方に関係している点です。製品は工場でつくられるものですが、企業が製品を開発・製造するのは、最終的に市場に提供し、需要を満たすことを目指しているからです。
たとえば、工場で高精度のモーターを製造できたとしても、それを必要とする顧客がいなければ、企業の成果にはつながりません。技術的にすばらしい製造物を完成させることと、経済的に成功する商品を生み出すことは、関連していても同じではないのです。
製造物としての優秀さと、商品としての優秀さは異なる
製造物としての優劣は、主として技術的な観点から判断されます。性能、精度、耐久性、安全性、製造品質などが代表的な評価項目です。
一方、商品としての優劣は、経済的な観点から判断されます。顧客が必要としているか、価格に見合う価値があるか、競合製品と比べて魅力があるか、利益を確保できるかといった問題が関係します。
たとえば、非常に高性能な家電製品を開発したとします。しかし、その機能の大半を一般の消費者が必要としておらず、価格も高ければ、販売は伸びないかもしれません。反対に、機能を絞り、使い方をわかりやすくし、手頃な価格で提供した製品の方が多くの人に選ばれる場合があります。
この違いは、工業経営における重要な問題を示しています。技術部門が性能を高めることだけに集中すると、顧客にとって必要以上に高機能な製品を生み出してしまう可能性があります。いわゆる「過剰技術」の問題です。
技術的な優位性そのものが悪いわけではありません。その優位性が顧客の価値につながり、購入してもらえる形に転換されて初めて、企業にとって意味のある競争力になります。
製造部門と販売部門の協力が欠かせない
製造部門は、品質の高い製品を効率よくつくろうとします。一方、販売部門は、顧客が求める価格、機能、デザイン、納期などを重視します。どちらも企業にとって必要な役割ですが、判断基準が異なるため、意見が食い違うことがあります。
製造部門が「最高の性能を実現したい」と考えていても、販売部門が「顧客はそこまでの性能を求めていない」と判断することがあります。販売部門が「短期間で新製品を投入したい」と考えても、製造部門は「品質を安定させるには、まだ試験が必要だ」と考えるかもしれません。
こうした対立を解消するには、技術的な完成度と市場での価値を別々に考えたうえで、企業全体の目標に照らして調整する必要があります。製品は、工場だけで完成するのではありません。製造と販売を結びつけ、顧客の需要に応えることで、企業活動の成果につながるのです。
2. 新製品とは何か――「新しさ」にはいくつもの尺度がある
新製品と改良製品の境界は明確ではない
新製品という言葉を聞くと、これまで存在しなかった革新的な製品を想像しがちです。しかし、現実の企業活動では、まったく新しい製品ばかりが開発されるわけではありません。既存製品を改良したものや、従来の製品に新しい機能や用途を加えたものも、新製品として扱われます。
新しさの程度から見ると、製品は大きく「旧製品」「改良製品」「新製品」に分けられます。
旧製品
従来からある製品
改良製品
既存製品を改善
新製品
新しい特徴を持つ製品
新しさは連続的なものであり、改良製品と新製品の境界が曖昧な場合もある。
たとえば、同じ掃除機でも、吸引力を高めたり、軽量化したり、バッテリーの持続時間を延ばしたりした製品は改良製品と考えられます。一方、従来とは異なる仕組みで掃除を自動化する製品は、より新規性の高い製品と見なされる可能性があります。
ただし、何をもって新製品とするかは、単純には決まりません。どの程度変わったのかだけでなく、誰の立場から見て新しいのか、どの側面が変わったのかも重要です。
企業にとっての新製品と、業界にとっての新製品
ある企業が初めて製造する製品であっても、すでに他社が製造・販売している場合があります。この場合、その企業にとっては新製品でも、国内業界や国際市場全体から見れば、既存製品や改良製品にすぎないかもしれません。
たとえば、ある家電メーカーが初めてロボット掃除機を発売したとします。その企業にとっては新たな製品分野への進出ですが、すでに市場に多くのロボット掃除機が存在するなら、業界全体にとっては新製品とは言いにくいでしょう。
新製品を評価する際には、少なくとも企業レベル、国内業界レベル、国際業界レベルという複数の視点が必要になります。新規性を判断する基準を明確にしなければ、企業が「新製品」と呼ぶものと、市場が「新しい」と感じるものが食い違う可能性があります。
物的な新しさ、機能的な新しさ、用途の新しさ
新製品には、物そのものが新しい場合だけでなく、機能や用途が新しい場合もあります。
たとえば、製品の素材を鉄からプラスチックに変更した場合、物的な構成は変わっています。しかし、製品の用途や基本機能が従来と同じなら、用途の面では新しいとは限りません。
逆に、既存の機器を小型化・改良し、これまでとは異なる利用者や場所で使えるようにした場合、物的には改良にとどまっていても、用途の面では新しさが生まれます。
つまり、新製品の新規性は、製品の形や素材だけで判断できません。どのような機能を実現するのか、誰がどのように使うのかまで含めて評価する必要があります。
この考え方は、製品開発の方向性を考えるうえで役立ちます。新しい素材や技術を開発することだけが革新ではなく、既存の技術を別の用途に応用したり、使い方を変えたりすることも、新しい市場を開くきっかけになるのです。
3. 製品を取り巻く環境は、需要の変化によって動いている
製品は、企業と社会をつなぐ接点である
企業は利益を得ることを目指しますが、利益を得るためには、社会のなかに存在する需要に応えなければなりません。人々が必要とするものを提供し、その対価を得ることによって、企業は存続し、成長することができます。
この意味で、製品は企業と社会をつなぐ接点です。製品が市場で選ばれるかどうかは、技術力や生産能力だけでなく、社会の変化をどれだけ理解しているかにも左右されます。
製品を取り巻く環境として、特に重要なのが経済的環境、社会・文化的環境、技術的環境です。
経済的環境――需要の量だけでは成長できない
経済が急速に成長している時期には、所得の増加や生活水準の向上に伴って、さまざまな製品の需要が拡大します。企業は生産能力を高め、より多くの製品を供給することで成長できる可能性があります。
しかし、生活に必要な基本的な製品が広く普及し、需要が満たされてくると、同じ製品を大量に供給するだけでは成長しにくくなります。企業同士が限られた需要を奪い合うようになり、価格競争も激しくなります。
このような環境では、単に生産量を増やすのではなく、これまで満たされていなかった需要を発見したり、従来の製品にはない価値を提供したりすることが重要になります。
たとえば、家電製品が各家庭に普及した後は、単に「家電を持っていない人に売る」という市場拡大だけでは限界があります。省エネルギー、使いやすさ、設置スペースの削減、家事負担の軽減など、新しい価値を提供することで買い替え需要や新たな需要を生み出す必要が出てきます。
社会・文化的環境――消費者の価値観は多様化する
社会が豊かになり、生活様式や価値観が多様化すると、人々が製品に求めるものも変化します。価格や基本性能だけでなく、デザイン、使い心地、環境への配慮、個人の好み、生活空間との調和などが購買判断に影響するようになります。
たとえば、冷蔵庫に求められる基本的な機能は、食品を冷やして保存することです。しかし、消費者によっては、省エネルギー性能を重視する人もいれば、収納のしやすさ、デザイン、静音性、スマートフォンとの連携を重視する人もいます。
こうした多様な需要に応えるには、単一の製品を大量生産するだけでは十分でない場合があります。複数の機種や仕様を用意したり、利用者ごとの課題を調査したりする必要が生まれます。
ただし、製品の種類を増やせばよいというわけでもありません。種類が増えすぎると、部品の管理や生産計画が複雑になり、在庫や製造費用が増える可能性があります。多様な需要に応えながら、企業としての効率も確保することが、製品戦略の課題になります。
技術的環境――技術革新は製品の競争条件を変える
製品の発展は、技術の発展と密接に結びついています。新しい材料、製造方法、電子部品、ソフトウェアなどが登場すると、従来は実現できなかった性能や用途を実現できるようになります。
一方で、技術革新は、既存製品の競争力を急速に低下させることもあります。従来の技術に依存しすぎている企業は、新しい技術を取り入れた競合企業に市場を奪われる可能性があります。
たとえば、製品がハードウェア中心だった市場にソフトウェアやネットワーク機能が組み込まれると、競争の焦点そのものが変わることがあります。製品本体の性能だけでなく、更新のしやすさ、他の機器との連携、データの活用、サービスの提供などが価値を左右するようになります。
そのため、企業は現在の製品を改善するだけでなく、将来の技術変化を見通し、研究開発に取り組む必要があります。研究開発には資金と時間がかかり、必ずしも成功するとは限りません。それでも、技術の変化に対応できる能力は、長期的な競争力を維持するうえで重要です。
4. 製品にはライフサイクルがある
製品の需要は、誕生から衰退まで変化する
製品の需要は、発売したときから一定のまま続くわけではありません。新たな需要が生まれ、普及し、市場が成熟し、やがて需要が縮小していくことがあります。この一連の変化を製品ライフサイクルと呼びます。
製品ライフサイクルの基本的な流れ
黎明期
需要が生まれる
成長期
普及が進む
成熟期
普及が進み、成長が鈍る
衰退期
需要が縮小する
実際の製品の推移は一様ではなく、改良や新用途の開拓によって再び需要が伸びることもある。
黎明期には、製品そのものが十分に知られていなかったり、利用方法が確立していなかったりするため、市場規模はまだ小さいことがあります。成長期になると、製品の有用性が認識され、利用者や販売量が増えていきます。
成熟期には、製品が広く普及し、需要の伸びが鈍くなることがあります。競合企業も増え、価格や品質、ブランド、サービスなどをめぐる競争が強まります。さらに、代替技術や新しい生活様式が登場すると、従来製品の需要が縮小し、衰退期に入る場合があります。
ただし、すべての製品が必ず同じ経路をたどるわけではありません。改良や用途の拡大、海外市場への進出などによって、成熟した製品の需要が再び伸びることもあります。ライフサイクルは将来を機械的に予言する法則ではなく、市場の変化を考えるための枠組みです。
ライフサイクルによって、企業が取るべき戦略は変わる
製品がどの段階にあるかによって、企業が重視すべきことは異なります。
黎明期には、製品の存在や使い方を市場に知らせ、需要が本当に存在するのかを確かめることが重要です。成長期には、生産能力を確保し、品質を安定させながら市場の拡大に対応する必要があります。
成熟期には、コストを抑えることに加え、他社との差別化や既存顧客の維持が重要になります。衰退期には、製品を改良して需要を再び開拓するのか、生産を縮小するのか、あるいは別の製品へ資源を移すのかを判断しなければなりません。
ここで重要なのは、企業が現在の売上だけを見ていてはいけないということです。現在の主力製品が大きな売上を生み出していても、その市場が成熟しているなら、将来の成長を担う製品を準備する必要があります。逆に、まだ売上が小さい新製品でも、将来大きく成長する可能性があれば、研究開発や市場開拓への投資が重要になります。
5. 製品戦略は、何をつくり、どの市場で競争するかを決める
単一の製品ではなく、製品全体の構成を考える
工業企業が製造する製品は、一種類だけとは限りません。複数の製品を扱う企業では、それらをどのように組み合わせるかが重要な経営課題になります。
関連性の深い製品群を「製品系列(ライン)」と呼び、複数の製品系列を組み合わせた全体を「製品組合せ(ミックス)」と呼びます。
たとえば、家電メーカーが冷蔵庫という製品系列を持ち、その中に小型・標準型・大型の製品を展開しているとします。さらに、洗濯機、掃除機、電子レンジなどの製品系列を持っていれば、それらを組み合わせた全体が企業の製品組合せになります。
企業は、経営目標を達成するために、どの製品を維持し、どの製品を改良し、どの新製品に投資するかを判断しなければなりません。製品の数を増やすこと自体が目標ではなく、需要や利益、企業の技術力、生産能力などを踏まえ、適切な製品構成をつくることが重要です。
製品戦略は、市場戦略でもある
製品戦略では、何をつくるかだけでなく、どの市場に参入するか、いつ参入するかも決める必要があります。
新製品の市場が今後成長するのか、競合企業がどの程度存在するのか、自社が必要な技術や生産能力を持っているのかといった点を検討します。また、既存市場のなかで競争するのか、新たな用途を開拓するのか、海外市場へ進出するのかによっても、必要な資源やリスクは異なります。
ここでは、需要の予測と自社の能力の評価を組み合わせることが重要になります。市場が成長していても、自社が品質やコストで競争できなければ、参入が成功するとは限りません。反対に、自社に高い技術力があっても、その技術を必要とする市場が小さければ、十分な成果を得られない可能性があります。
供給側の発想から、需要側の発想へ
製品戦略には、供給側の技術や能力を起点とする考え方と、需要側の要望を起点とする考え方があります。
供給指向型、すなわちシーズ型の発想では、自社が持つ技術や製造能力を生かし、何を製品化できるかを考えます。需要指向型、すなわちニーズ型の発想では、顧客が何を必要としているかを調査し、その需要を満たす製品を考えます。
両者は必ずしも対立するものではありません。技術を起点に生まれた製品が、予想していなかった用途を発見することもあります。一方、顧客の要望に応えようとしても、技術的に実現できなかったり、価格が高くなりすぎたりする場合があります。
重要なのは、技術的にできることと、市場が求めることを結びつけることです。顧客の声を聞くだけでも、技術の可能性だけを追求するだけでも、十分な製品戦略にはなりません。市場の需要と自社の能力を照らし合わせながら、実現可能で価値のある製品を選ぶ必要があります。
6. 製品を理解することは、企業の将来を考えることである
製品は、工場で製造される物体であると同時に、顧客の需要に応え、企業の利益を生み出すための存在です。そのため、製品を評価する際には、技術的な品質と商品としての価値を区別しながら、両者を結びつける必要があります。
新製品についても、単に「これまでにないものか」という点だけでなく、どの市場や企業にとって新しいのか、物的・機能的・用途的にどのような新しさがあるのかを考えることが重要です。
さらに、製品を取り巻く経済的環境、社会・文化的環境、技術的環境は絶えず変化します。需要がどのように生まれ、成長し、成熟し、衰退するかを見きわめ、製品系列や製品組合せを適切に構成しなければなりません。
工業経営の視点から見れば、優れた製品とは、技術的に優秀なだけの製品ではありません。顧客が必要とする価値を備え、適切な価格で提供でき、企業が継続的に供給できる製品です。製品をつくる技術と、製品を市場で価値に変える経営を一体として考えることが、製品戦略の出発点なのです。
