福祉国家の違いは、政府がどれだけ多くのお金を使っているかだけでは説明できません。失業したときの生活を誰が支えるのか、老後の所得を公的年金と私的年金のどちらで確保するのか、子育てや介護を家族に任せるのか、それとも社会サービスとして提供するのか。こうした仕組みの組み合わせによって、国ごとの福祉のあり方は大きく変わります。

社会政策研究者のイェスタ・エスピン=アンデルセンが提示した「福祉資本主義の三つの世界」は、各国の福祉制度を比較するための代表的な枠組みです。しかし、国を三つに分類するだけでは、現実の複雑さや歴史的な変化を十分に捉えられません。そこで重要になるのが、制度を個別に見るのではなく、国家・市場・家族がどのように役割を分担しているのかという視点です。

この考え方は、福祉政策の比較にとどまりません。高齢化、少子化、女性の就業、雇用の不安定化など、現代社会が直面する課題を考えるうえでも役立ちます。福祉国家の仕組みは、社会が抱えるリスクを誰に引き受けさせ、どのような人々に安心と自立の機会を与えるかを決める、社会の基本設計だからです。

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1. 福祉国家を比較するには「制度の組み合わせ」を見る

福祉国家の規模だけでは、社会の仕組みはわからない

福祉国家を比較するとき、社会保障費が国内総生産に占める割合や、年金・医療・失業給付への支出額が注目されます。こうした数字は重要ですが、それだけでは各国の違いを十分に説明できません。

たとえば、二つの国が同じ程度の社会保障費を支出していたとしても、一方では幅広い国民に公的サービスを提供し、もう一方では所得の低い人に給付を限定し、老後の生活保障を企業年金や個人の貯蓄に大きく依存しているかもしれません。支出額が似ていても、社会保障の考え方や、保障を受けられる人々の範囲は異なります。

大切なのは、福祉がどのようにつくられているかという点です。国家が税金や社会保険を通じて提供する福祉だけでなく、市場で購入する民間保険やサービス、家族が無償で担う子育て・介護・生活支援も含めて考える必要があります。

「福祉レジーム」とは何か

福祉レジームとは、福祉を生み出す役割が国家・市場・家族の間でどのように配分され、それらがどのように結びついているかを示す概念です。

ここでいう「レジーム」は、単独の年金制度や医療制度を意味するのではありません。複数の制度や社会的な慣行が組み合わさり、社会全体として一定の仕組みをつくっている状態を指します。

たとえば、高齢者の生活保障を考えてみましょう。公的年金が十分であれば、本人は家族からの経済的援助に頼りすぎずに暮らせます。公的保障が限定的なら、企業年金や個人貯蓄が重要になり、資産を十分に持たない人は家族の支援を必要とする可能性が高まります。

つまり、年金制度だけを切り離して評価するのではなく、雇用、賃金、税制、家族関係などとの結びつきを見ることで、その国の福祉の特徴が明らかになるのです。

類型化は、複雑な社会を理解するための地図である

多くの国を一つずつ詳細に比較するのは容易ではありません。そこで、共通する特徴を持つ国々をいくつかのグループにまとめる「類型化」が役立ちます。

類型化には、比較の手間を減らし、制度の背後にある共通の論理を見つけ、仮説を立てて検証しやすくする利点があります。しかし、分類は現実そのものではありません。地図が地形を簡略化しているように、福祉レジームの類型も、現実の一部を抽象化したものです。

国によっては複数の類型の特徴を併せ持ちますし、同じ国でも時代が変われば制度の性格が変わります。したがって、類型を暗記して国名を当てはめることよりも、何を基準に分類しているのか、そして分類によって何が見え、何が見えなくなるのかを理解することが大切です。

2. 「福祉資本主義の三つの世界」とは何か

自由主義・保守主義・社会民主主義という三つの基本型

エスピン=アンデルセンの「三つの世界」論は、福祉資本主義を大きく三つのレジームに分類します。中心となるのは、自由主義、保守主義、社会民主主義です。

この分類では、福祉を国家がどの程度提供するかだけでなく、市場への依存度、社会保障が社会階層をどのように形づくるか、そして人々が労働市場に参加し続けなくても生活を維持できるか、といった点が重視されます。

自由主義的福祉レジーム

市場と個人の責任を重視

社会保障の対象を必要性の高い人々などに限定し、民間保険や個人の備え、市場サービスの役割を大きくする傾向があります。代表例として、米国、カナダ、オーストラリアなどが挙げられます。

保守主義的福祉レジーム

職業上の地位や家族の役割を重視

社会保険を通じて雇用や職業上の地位に結びついた保障を行い、家族が福祉を担う役割も重視します。ドイツなどの大陸ヨーロッパ諸国が典型例です。

社会民主主義的福祉レジーム

普遍的な保障と平等を重視

幅広い国民を対象に、所得保障と社会サービスを組み合わせ、生活上のリスクを社会全体で引き受ける傾向があります。スウェーデン、デンマーク、ノルウェーなどの北欧諸国が代表例です。

この三つは、現実の国を完全に区切るための箱ではありません。各国の福祉制度が、どのような原理を相対的に強く持っているかを比較するための基本型です。

三つの世界を区別する「脱商品化」と「階層化」

三つの世界を理解するうえで重要なのが、「脱商品化」と「階層化」という考え方です。

脱商品化とは、人が労働力を市場で売り続けなくても、一定の生活水準を維持できる度合いを指します。たとえば、失業したときに十分な給付があり、病気になっても医療を受けられ、老後には生活を支える年金があるなら、人は生活のすべてをその時々の雇用や賃金だけに依存せずに済みます。

一方、階層化とは、福祉制度が社会階層や格差をどのように維持したり、縮小したりするかという問題です。保障が職業や所得に強く結びついていれば、もともとの地位の違いが社会保障にも反映されやすくなります。反対に、幅広い人々に共通する保障やサービスが提供されれば、生活上の格差を抑える働きが強まる場合があります。

ここで注意したいのは、脱商品化が高ければ、あらゆる面で平等な社会になるとは限らないことです。所得保障が充実していても、家族内の役割分担やサービスの利用機会に大きな差が残る可能性があります。そのため、福祉レジームを評価するには、所得保障だけでなく、社会サービスや家族の役割まで視野に入れる必要があります。

3. 自由主義的福祉レジーム――市場を中心に生活を支える

公的保障を限定し、個人の自助努力を重視する

自由主義的福祉レジームの基本的な考え方は、市場が生活上の必要を満たす中心的な仕組みであり、国家による保障は限定的な役割を担うべきだというものです。個人は仕事を通じて所得を得て、必要に応じて民間保険や貯蓄などを利用し、自分の将来に備えることが期待されます。

このモデルでは、社会保障が必要な人を選別し、所得や資産などを確認して給付する仕組みが重視されます。貧困に陥った人を支援することは必要ですが、すべての人に同じ水準の保障を提供することには慎重です。

このような制度は、財政支出を抑えながら支援を必要とする人に資源を集中できるという利点があります。一方で、支援を受けるために所得調査などを受けなければならず、制度の利用に心理的な抵抗が生じる場合もあります。また、給付対象から外れた人や、制度上の条件を満たせない人が生活上のリスクを自分で引き受けなければならないこともあります。

民間保険や企業の福利厚生が大きな役割を果たす

自由主義的な国では、年金や医療、雇用に関連する保障の一部を民間市場に委ねる傾向があります。企業が従業員に提供する年金や医療保険、個人が加入する生命保険などが、生活を守る重要な手段になります。

ただし、市場を通じた保障には、所得や雇用状況による差が生まれやすいという問題があります。安定した仕事と高い所得を持つ人は十分な保険に加入できても、低賃金で働く人や雇用が不安定な人は、必要な保障を確保しにくい場合があります。

つまり、市場を活用する仕組みは、選択の自由や個人の工夫を生かしやすい反面、経済的な資源の差が、生活の安心の差に直結しやすいのです。

自由主義モデルは、単純に「福祉が少ない国」ではない

自由主義的な福祉レジームといっても、公的保障がすべて小さいわけではありません。米国には広範な公的年金制度があり、英国やカナダには公的医療保障があります。国によって制度の組み合わせは異なり、同じ類型の中にも違いがあります。

大切なのは、特定の制度が存在するかどうかだけではなく、福祉全体がどのような原理で組み立てられているかという点です。公的制度が一部で大きな役割を果たしていても、所得調査を伴う支援や民間保険、市場を通じた保障への依存が全体として強ければ、自由主義的な性格は残り得ます。

4. 社会民主主義的福祉レジーム――普遍的な保障と社会サービスを組み合わせる

所得や職業にかかわらず、幅広い人々を支える

社会民主主義的福祉レジームの特徴は、普遍主義を重視する点にあります。普遍主義とは、特定の低所得者や限られた職業集団だけを対象にするのではなく、広い範囲の人々に社会保障やサービスを利用する権利を認める考え方です。

北欧諸国では、社会保障を単なる貧困対策として捉えるのではなく、国民が生活を営むための共通の基盤として整備する方向が強く見られます。社会保障を利用することが、特別な困窮の証明や社会的な烙印と結びつきにくい仕組みを目指しているのです。

普遍主義は、所得の再分配だけでなく、社会の連帯にも関係します。特定の人々だけが支援を受けるのではなく、多くの人が共通の制度を利用し、その維持を支えるなら、社会保障は一部の人のための負担ではなく、誰もが必要とする仕組みとして理解されやすくなります。

北欧型の特徴は、現金給付だけでなくサービスの充実にある

社会民主主義的な福祉レジームの独自性は、年金や失業給付の水準だけでは説明できません。保育、介護、医療などの社会サービスを広く整備していることが重要です。

たとえば、保育サービスが利用しやすければ、子どものいる人も仕事を続けやすくなります。高齢者向けの介護サービスが整備されていれば、家族が介護のすべてを担わずに済み、家族の働き方や暮らし方にも選択肢が生まれます。

このようなサービスの整備は、福祉の提供であると同時に、雇用を生み出す仕組みでもあります。保育士、看護職、介護職などの仕事が必要になり、公共部門の雇用も拡大します。福祉政策が人々の生活を支えるだけでなく、労働市場への参加を促す役割を果たすのです。

「働かなくてもよい」ではなく、「働ける条件を社会が整える」

北欧型の福祉を、働かなくても生活できる仕組みとだけ捉えるのは正確ではありません。ここで重視されるのは、人々が能力を発揮し、仕事に参加できる条件を整えることです。

職業訓練や再訓練、就職支援、保育サービスなどを組み合わせることで、失業した人が再び仕事に就く機会をつくり、女性を含む幅広い人々が労働市場に参加できるようにします。

この考え方は、生産主義という概念とも結びつきます。生産主義とは、人々の生産的な能力をできる限り引き出そうとする考え方です。ただし、働くことを給付の条件として強く求めるだけの仕組みとは異なります。働くために必要な資源やサービス、そして仕事そのものを社会が整えることが重視されます。

もちろん、北欧諸国でも財政制約や失業、給付制度の見直しなどの問題は生じます。社会民主主義的な仕組みも固定された完成形ではなく、普遍的な権利と財政の持続可能性をどのように両立させるかという課題を抱えています。

5. 保守主義的福祉レジーム――職業上の地位と家族を重視する

社会保険を通じて、職業や所得に結びついた保障を提供する

保守主義的福祉レジームは、主に大陸ヨーロッパ諸国の歴史的な制度に見られる特徴を持っています。ここでいう「保守主義」は、単に政治的に保守的な思想を意味するのではなく、福祉制度がどのような歴史的・制度的原理によって形づくられているかを示す分類名です。

このレジームでは、社会保険を通じた保障が重要な役割を果たします。年金や医療保険などが雇用や職業上の地位、保険料の拠出と結びつき、現役時代の働き方や所得が、退職後の保障にも反映されやすい仕組みです。

この仕組みには、働いている間の所得や職業上の地位を、生活保障に結びつけられるという利点があります。しかし、職業別の制度が複雑に分かれている場合、異なる職業間で保障内容に差が生まれたり、標準的な雇用から外れた人が不利になったりする可能性があります。

家族が福祉の重要な担い手になる

保守主義的レジームでは、家族が生活上のリスクに対応する役割も重視されます。子育てや介護、家族への経済的支援などは、まず家族が担うべきものと考えられやすく、国家や市場によるサービスがその役割を全面的に置き換えるわけではありません。

このような家族主義は、家族内の相互扶助や世代間の支え合いを重視する一方、家族が提供できる支援の量や質によって、個人の生活条件が左右されるという問題を持っています。家族に介護できる人がいるか、十分な所得があるか、仕事とケアを両立できるかによって、同じ社会保障制度の下でも生活のしやすさは変わります。

また、伝統的な性別役割分担が強い場合、家族の中でケアを担う負担が女性に偏ることがあります。家族の役割を重視する制度を考える際には、家族が支え合うことの価値だけでなく、誰がその負担を引き受けているのかを確認する必要があります。

保守主義型は、単純な市場型でも国家中心型でもない

保守主義的レジームでは、国家による社会保険、職業集団による制度、家族の相互扶助などが組み合わさっています。民間市場だけに生活保障を任せるわけでも、すべての人に同一の保障を提供するわけでもありません。

そのため、同じ公的支出の規模であっても、制度の組み立て方によって人々が受け取る保障は異なります。社会保険が手厚くても、保育や介護のサービスが十分でなければ、家族、とりわけ女性が担う無償労働は大きく残るかもしれません。

ここからわかるのは、福祉国家の性格を判断するには、所得保障、職業上の区分、社会サービス、家族の役割を一体として見る必要があるということです。

6. 三つの分類だけで、すべての国を説明できるのか

現実の国は、きれいに三つに分かれるわけではない

三つの世界論に対しては、いくつかの国が分類にうまく当てはまらないという批判が寄せられてきました。英国やオランダ、オーストラリア、ニュージーランド、南ヨーロッパ諸国、日本などは、三つの基本型だけでは十分に説明しにくい特徴を持つと論じられてきました。

しかし、分類に当てはまらない部分があるからといって、すぐに新しい類型を追加すればよいとは限りません。類型を増やしすぎると、比較の手間を減らすという分類の利点が失われ、個別の国を一つずつ調べるのと変わらなくなるからです。

重要なのは、ある国の特徴が三つの類型から外れているとして、それが一つの制度に限られた例外なのか、それとも国家・市場・家族の関係全体に関わる根本的な違いなのかを見極めることです。

英国――歴史の中でレジームの性格が変わる

英国は、福祉国家の分類が時代によって変わり得ることを示す事例です。戦後の英国には、普遍的な給付や国民保健サービスなど、社会民主主義型と共通する特徴が見られました。しかし、その後の政策転換や民営化、規制緩和などを通じて、市場の役割が強まり、自由主義的な性格が目立つようになったと分析されています。

これは、国の福祉レジームが永遠に変わらないわけではないことを意味します。ある時点の制度を基に分類した結果を、そのまま別の時代に当てはめることはできません。

また、英国が社会民主主義型と共通する制度を持っていた時期があったからといって、北欧諸国と同じ仕組みを持っていたとは限りません。制度の一部が似ていても、サービス供給や雇用政策、家族の役割などを含めれば、全体として異なるレジームを形成している可能性があります。

オランダ――所得保障と社会サービスで分類が変わる

オランダも、何を比較するかによって分類が変わり得る事例です。所得保障の制度だけを見れば、普遍主義的な保障や高い給付水準など、社会民主主義型と共通する特徴が見られます。一方、社会サービスの供給や家族の役割に注目すると、大陸ヨーロッパの保守主義型に近い特徴も浮かび上がります。

この違いは、福祉国家を現金給付だけで評価することの限界を示しています。年金が充実していても、子育てや介護のサービスが十分でなければ、家族の負担は大きく残ります。反対に、所得保障の仕組みが異なっていても、サービスの充実によって人々が生活上のリスクを乗り越えやすくなることもあります。

オランダのような事例は、福祉レジームの分類が間違っているというより、分類の際にどの制度や関係を重視するかが重要であることを教えてくれます。

7. 「第四の福祉レジーム」をめぐる議論

オセアニア――賃金制度も福祉を生み出してきた

オーストラリアやニュージーランドについては、従来の三つの類型とは異なる「第四の世界」として捉えるべきだという議論があります。

その理由の一つは、国家が提供する給付だけでなく、賃金制度や労働市場の仕組みが、生活保障に大きな役割を果たしてきたことです。賃金を一定水準に保ち、雇用を安定させ、賃金格差を抑える制度が機能すれば、国家による現金給付が限定的でも、働く人々の生活を支えられる場合があります。

この見方に立つと、市場は必ずしも自由主義的な福祉の担い手とは限りません。市場の中に強い規制や集団的な賃金決定の仕組みがあれば、労働市場そのものが平等主義的な保障を生み出すこともあるからです。

ただし、賃金制度や雇用慣行が変化し、労働市場の規制が弱まれば、こうした保障も失われる可能性があります。実際に、オーストラリアやニュージーランドの制度も、経済自由化や雇用環境の変化によって性格を変えてきたと論じられています。

南ヨーロッパ――家族への依存は独自の特徴なのか

イタリアやスペインなどの南ヨーロッパ諸国についても、地中海型という独自の類型を設けるべきだという議論があります。

その背景には、社会扶助の仕組みが限定的であることや、家族が生活支援の主要な担い手と見なされてきたことがあります。家族が通常は機能し続け、困ったときには親族が支えるという前提が強ければ、国家による支援を幅広く整備する必要性が小さく見積もられる可能性があります。

しかし、家族が常に支援を提供できるとは限りません。高齢化が進み、子どもの数が減り、若い世代が地域を離れて働くようになると、家族に依存する仕組みは不安定になります。家族を福祉の中心に据える制度は、家族の形や人口構造が変化したときに、その弱点が表面化しやすいのです。

南ヨーロッパに独自の類型を設けるべきかどうかは、社会扶助の特徴だけでなく、家族主義が福祉制度全体をどの程度形づくっているかによって判断する必要があります。

東アジア――日本はどの類型に近いのか

日本も、福祉レジームの分類を考えるうえで重要な事例です。日本には、雇用主が提供する福利厚生や企業年金、職業や制度によって区分された社会保険など、職業上の地位と生活保障を結びつける特徴があります。一方で、公的給付の一部には対象を限定する仕組みがあり、市場を通じた保障も一定の役割を果たしてきました。

このように、日本は自由主義型と保守主義型の特徴を組み合わせた制度を持つと分析できます。また、企業が従業員に提供する保障が重要であるため、雇用関係が安定している人と、そうでない人との間に差が生じる可能性があります。

日本の制度を理解するうえでは、社会保障制度だけでなく、長期雇用を前提とした企業慣行、世帯内の役割分担、家族による介護、雇用形態の違いなどを合わせて考える必要があります。

日本を独自の「東アジア型」として分類することが有効かどうかは、制度の一部に独自性があるかだけでは決まりません。国家・市場・家族の関係が、ほかの類型とは異なる一貫した論理で組み立てられているかが重要です。

8. 福祉レジームを検証するには、何を測定すべきか

現金給付だけでなく、社会サービスを比較する

福祉レジームの比較では、年金や失業給付などの所得保障が重要な指標になります。しかし、それだけを測定すると、社会サービスの違いや家族が担う無償労働の違いが見落とされます。

たとえば、二つの国で年金の支給水準が同じでも、介護サービスや保育サービスの利用しやすさが異なれば、家族の生活は大きく違います。サービスが不足している国では、家族が介護や育児のために仕事を辞めたり、労働時間を減らしたりする必要が生じるかもしれません。

そのため、福祉レジームを比較する際には、所得保障の水準や対象範囲に加え、保育、介護、医療などのサービスがどの程度整備されているか、誰がそれを利用できるか、家族がどの程度の負担を担っているかを見る必要があります。

普遍主義、家族主義、コーポラティズムを組み合わせて見る

福祉レジームを検証する際には、複数の特徴を組み合わせて捉えることが有効です。

普遍主義は、幅広い人々に保障が開かれているかを示します。家族主義は、家族が福祉の主要な担い手とされているかを示します。コーポラティズムは、職業集団や組織された利益集団が制度の形成・運営にどのように関与し、職業上の地位に応じた区分が制度にどの程度残っているかを理解するための視点です。

これらを組み合わせることで、単に「政府支出が多い」「民間保険が多い」という比較を超えて、福祉制度の構造を捉えられます。

たとえば、普遍的な所得保障が整っていても、家族の負担が大きければ、生活上の自立は十分に保障されないかもしれません。反対に、社会保険が職業別に分かれていても、給付水準が高く、家族を支えるサービスが整備されていれば、特定のリスクへの対応力は高い可能性があります。

このように、福祉レジームは一つの指標で決まるものではなく、複数の制度的特徴の組み合わせとして理解されます。

9. 福祉レジームの類型論は、今も有効なのか

類型論の限界は、比較する意味がないことを示さない

福祉レジームの類型論には、現実を単純化しすぎるという限界があります。国ごとの歴史的な違いや、制度の内部にある矛盾、政策転換の過程を、三つの分類だけで説明し尽くすことはできません。

しかし、分類に当てはまらない国があることは、類型論が無意味であることを示すわけではありません。むしろ、どのような点で類型から外れるのかを調べることによって、福祉制度の本質や、制度間の関係をより深く理解できる場合があります。

英国の変化は、福祉レジームが歴史の中で変わることを示します。オランダの事例は、所得保障と社会サービスを分けて見る必要性を示します。オセアニアの事例は、労働市場の制度が福祉を生み出す可能性を示し、日本の事例は、国家・市場・企業・家族の関係が複雑に組み合わさっていることを示します。

これらは、三つの世界論を捨てるべき理由というより、分類をより精密に使うための手がかりです。

制度の過去は、未来の選択肢にも影響する

福祉レジームは、現在の政策だけでなく、過去の制度形成の積み重ねによって形づくられています。いったん年金制度や雇用慣行、社会サービスの仕組みが定着すると、それらを支える組織や利害関係が生まれ、改革の方向にも影響します。

そのため、同じ高齢化やグローバル化に直面しても、国によって対応は異なります。公的サービスを拡充する国もあれば、民間市場の役割を大きくする国もあります。雇用を守る仕組みを維持する国もあれば、労働市場の柔軟化を優先する国もあります。

こうした違いは、経済や人口の変化だけで自動的に決まるものではありません。政治的な選択や、社会の中でどのように利害を調整するかによって、同じ外部環境から異なる結果が生まれます。

したがって、福祉レジームを比較することは、各国の現状を分類するだけでなく、社会がどのような選択をしてきたのか、そして今後どのような選択が可能なのかを考えることでもあります。

10. 福祉国家の違いを知ることは、社会の未来を考えること

福祉は、誰がリスクを引き受けるかという問題である

病気、失業、老後、子育て、介護といったリスクは、どの社会にも存在します。しかし、それらを誰が引き受けるかは国によって異なります。

市場への依存が強ければ、所得や資産を持つ人は自分に合ったサービスを選べる一方、資源の乏しい人は十分な保障を確保しにくくなる可能性があります。家族への依存が強ければ、家族の支援を受けられる人は生活を維持しやすくても、頼れる家族がいない人は困難に直面しやすくなります。公的サービスが充実していれば、個人や家族だけでは対処しにくいリスクを社会全体で分担しやすくなります。

ただし、どのモデルにも利点と課題があります。普遍的な保障には財源の確保が必要です。職業に結びついた社会保険には、雇用が不安定な人をどのように支えるかという課題があります。市場を活用する仕組みには、利用できる人とできない人の格差をどう抑えるかという問題があります。

福祉国家を評価する際には、単に「どの国が優れているか」を決めるのではなく、どのようなリスクを誰が負担し、どのような人々が制度から取り残されやすいかを検討することが重要です。

高齢化・少子化・雇用の変化を考えるための視点

高齢化が進めば、年金や医療、介護の需要が増加します。少子化が進めば、将来の労働力や家族による支援の担い手が減る可能性があります。雇用が不安定になれば、職業や保険料の拠出に結びついた保障だけでは、十分に生活を守れない人が増えるかもしれません。

こうした変化に対応するには、制度を個別に見直すだけでは不十分です。年金制度の改革が高齢者の所得にどのような影響を与えるか、保育サービスの整備が女性の就業や出生行動にどう関わるか、介護サービスの充実が家族の負担や雇用にどのような変化をもたらすかを、相互の関係として捉える必要があります。

福祉レジームの比較は、こうした制度間のつながりを理解するための道具になります。各国の制度をそのまま移植することが答えなのではなく、制度が機能している背景や、ほかの制度との組み合わせを理解することが重要なのです。

福祉国家は、社会のあり方を選択する仕組みでもある

福祉国家は、困窮した人を救済するためだけに存在するわけではありません。人々がどの程度の安心を得られるか、仕事と家庭生活を両立できるか、家族の事情によって人生の選択肢がどれほど制限されるか、社会的な格差がどの程度次世代に引き継がれるかにも関わっています。

福祉レジームを比較することによって、私たちは社会保障を単なる給付や支出の問題としてではなく、社会全体の設計として考えられるようになります。

三つの世界論が示す最も重要な視点は、福祉国家の違いが、国家の大きさだけでなく、国家・市場・家族の関係の違いから生まれるということです。そして、その関係は歴史によって形づくられながらも、政治的な選択や制度改革によって変化していきます。

福祉国家を比較する目的は、国を三つの箱に分類して終わることではありません。どのような制度の組み合わせが人々の生活を支え、どのような仕組みが格差や排除を生み出すのかを理解し、これからの社会をどのように構築していくかを考えることにあります。