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1. 民主的な階級闘争とは何か

階級闘争は、民主主義の発展と両立する

「階級闘争」という言葉を聞くと、資本家と労働者が激しく対立し、ストライキや革命によって社会を変えようとする姿を思い浮かべるかもしれません。しかし、社会学者のゲスタ・エスピン=アンデルセンが注目するのは、階級間の利害対立が民主主義の制度のなかに組み込まれ、交渉や政策決定を通じて調整される仕組みです。

企業は利益を確保したいと考え、労働者は賃金の引き上げや雇用の安定、働く権利の保障を求めます。両者の利害は必ずしも一致しません。企業が人件費を抑えようとすれば、労働者の所得や雇用条件が圧迫される可能性があります。一方、労働者の要求を無視して賃金を抑制し続ければ、消費が縮小し、社会的な不満が高まることもあります。

こうした対立を、単に力の強い側が勝つという形ではなく、労働組合、使用者団体、政府、議会、福祉国家などの制度を通じて調整することが重要になります。労働者が集団として交渉する権利を持ち、その合意が社会全体のルールに反映されるならば、階級間の対立は民主的な政治の一部として処理されます。

このような仕組みを理解するうえで重要なのが、戦後の先進諸国で発展した「民主的な階級闘争」という考え方です。

なぜ階級闘争が消えたように見えたのか

第二次世界大戦後の先進諸国では、経済成長、製造業の拡大、労働組合の発展、福祉国家の整備が進みました。工場で働く労働者は社会の重要な構成員となり、賃金の上昇や社会保障の拡充によって生活水準を高めていきました。

その結果、資本家と労働者の対立が社会全体を二分するような状況は、以前よりも目立たなくなりました。労働者の生活が豊かになり、教育や住宅、医療、年金などへのアクセスが改善すると、階級間の対立は弱まったように見えます。

しかし、これは階級が消滅したことを意味しません。むしろ、労働者の要求を実現する制度が発達し、対立を処理する方法が変化したと考えられます。

労働組合は賃金交渉を行い、政党は労働者の利害を政治に反映させ、政府は社会保障や労働法制を通じて市場の結果を調整するようになりました。階級間の対立は、社会制度のなかに組み込まれていったのです。

ここには、民主主義についての重要な逆説があります。民主主義が階級対立を解消するのではなく、階級対立を制度的に処理できるようにすることで、社会の安定を実現するということです。

階級を決めるのは、経済的な立場だけではない

階級のあり方は、資本を所有しているか、労働力を提供しているかという経済的な区分だけでは決まりません。労働者がどの程度の賃金を得られるか、雇用がどれほど安定しているか、失業したときにどのような保障を受けられるかによっても、その生活や社会的地位は変わります。

たとえば、同じ企業で働く労働者であっても、正規雇用で長期的な雇用保障や企業年金を得られる人と、不安定な契約で働き、失業時の保障も限られている人とでは、生活上のリスクが大きく異なります。

この差を生み出すのは、個人の能力や努力だけではありません。労働組合の交渉力、労働協約の適用範囲、社会保障制度、労働市場の規制といった制度的条件が、労働者の生活を左右しています。

したがって、階級を分析するには、企業と労働者の関係だけでなく、労働市場と福祉国家がどのように結びついているかを理解する必要があります。

2. 民主的な階級闘争は、国によって異なる形をとる

労働組合が強ければ、労働者は平等になれるのか

労働者の権利を守るうえで、労働組合は重要な役割を果たします。しかし、労働組合が強いという事実だけで、社会全体の平等が実現するわけではありません。

エスピン=アンデルセンが注目するのは、労働組合の強さに加えて、労働組合がどのように組織され、賃金交渉がどの範囲で行われ、異なる組合や産業の間でどの程度の調整が行われるかという問題です。

たとえば、ある企業の労働組合が強い交渉力を持ち、自社の従業員の賃金や福利厚生を大幅に改善したとします。その企業の労働者にとっては望ましい成果です。しかし、交渉の対象がその企業だけに限られている場合、同じ産業の別の企業や、組織化されていない労働者には、その成果が及ばないかもしれません。

反対に、労働組合が産業全体や全国規模で交渉し、賃金や労働条件について共通の基準を形成できれば、特定の企業だけでなく、より広い範囲の労働者の生活を改善できます。

ここで重要になるのが、労働組合の集権化と調整機能です。

集権化とは、賃金や労働条件についての交渉が、個々の企業だけでなく、産業別や全国的なレベルで行われる程度を意味します。調整機能とは、複数の労働組合や産業の間で交渉方針を調整し、経済全体の状況を考慮した合意を形成する能力です。

両者が十分に機能すれば、労働者は自分たちの利益だけを追求するのではなく、経済全体の制約も考慮しながら、賃金と雇用の両立を目指すことができます。

北欧諸国とアメリカでは、何が違うのか

労使関係と福祉国家の結びつきを理解するためには、北欧諸国とアメリカの違いが参考になります。

北欧諸国では、労働組合の組織化や労働協約の適用範囲が比較的広く、賃金交渉を社会全体の調整と結びつける仕組みが発達してきました。普遍的な社会保障や公共サービスも、労働者の生活を支える役割を果たします。

一方、アメリカでは、市場を通じた資源配分がより重視され、労働組合の交渉力や労働協約の適用範囲も相対的に限定されてきました。企業が提供する年金や医療保障などの福利厚生が重要な役割を果たすため、安定した雇用を持つ人とそうでない人との間で、保障の格差が生じやすくなります。

比較する観点北欧型に見られる特徴アメリカ型に見られる特徴
労働組合と交渉広範な組織化と調整を重視企業や職場ごとの交渉の比重が大きい
賃金・労働条件共通の基準による平等化を図りやすい企業や労働者の市場での立場による差が生じやすい
社会保障普遍的な制度によって生活を支える市場や企業の制度に依存する部分が大きい
社会的な帰結労働者間の格差を抑えやすい中核的な労働者と周辺的な労働者の格差が生じやすい

ここで注意したいのは、北欧諸国があらゆる面で平等を実現しているという意味ではないことです。また、アメリカにも強い労働者保護や社会保障が存在する領域はあります。重要なのは、個々の制度がどのように組み合わされ、社会全体としてどのような結果を生み出すかという点です。

労働組合が強くても、組合間の調整が不十分であれば、組織化された労働者だけが有利になり、非正規雇用者や失業者などが取り残される可能性があります。逆に、雇用の柔軟性を高めながら、所得保障や再就職支援を充実させることができれば、労働者の生活を守りつつ経済の変化に対応することも可能になります。

労働組合と福祉国家は、互いを支える

労働組合と福祉国家は、別々に存在する制度ではありません。

労働組合が賃金や労働条件の改善を実現し、福祉国家が失業や病気、老後などのリスクを社会的に支えることで、労働者は市場での立場が弱くても、生活全体がただちに破綻することを避けられます。

また、社会保障が充実していれば、労働者は失業を恐れて不利な条件を無条件に受け入れる必要が小さくなります。職業訓練を受けたり、より適切な仕事を探したりする余地も広がります。

このように、福祉国家は労働者を市場の外側から支えるだけでなく、労働市場そのものの働き方にも影響します。

エスピン=アンデルセンの議論で重要なのは、福祉国家を単に税金を集めて給付金を配る仕組みとして理解しないことです。福祉国家は、労働組合や雇用制度とともに、所得、雇用機会、生活上のリスクを配分する社会の基盤なのです。

3. 労働市場の規制は、平等と雇用にどう影響するのか

労働者の権利を守る制度は、雇用を減らすのか

労働市場の規制をめぐっては、長く議論が続いてきました。

労働者の権利を守るための規制が強すぎると、企業は新規採用を控え、雇用が増えにくくなるという考え方があります。解雇が難しく、人件費が高く、失業給付などの社会保障も手厚ければ、企業は労働者を雇用することに慎重になるというわけです。

この見方は、特にヨーロッパの失業問題を説明する議論のなかで強調されてきました。

しかし、エスピン=アンデルセンは、労働市場の規制を単純に強いか弱いかで評価することに疑問を投げかけます。規制の内容だけでなく、労使交渉の仕組みや福祉国家のあり方との組み合わせを考える必要があるからです。

労働市場の規制には、少なくとも三つの重要な側面があります。

第一は、失業給付などの社会的な給付です。失業しても一定の所得を確保できることは、労働者の生活を守るうえで重要です。しかし、給付の設計によっては、再就職の誘因や企業の雇用コストに影響する可能性もあります。

第二は、賃金構造です。最低賃金や賃金交渉の仕組みは、低賃金労働者の生活を守る一方で、企業の採用判断や省力化投資にも影響します。

第三は、雇用保護です。解雇の条件や手続き、解雇に伴う費用などは、雇用の安定を支えると同時に、企業が景気や事業構造の変化に対応する方法を左右します。

これらの制度は、それぞれ異なる経路を通じて雇用に影響します。そのため、一つの規制だけを取り出して、雇用にとって有益か有害かを判断することは難しいのです。

「硬直的な労働市場」という説明の限界

労働市場の規制が強いヨーロッパで失業が多い一方、規制が比較的弱い国で雇用が増えているならば、規制を緩和すれば雇用問題を解決できるように見えるかもしれません。

しかし、この説明には限界があります。

まず、同じヨーロッパのなかでも、国によって雇用実績は異なります。労働者の生活保障を維持しながら、雇用の拡大を実現してきた国もあります。

次に、法律上の規制が強いことと、実際の労働市場が硬直していることは、必ずしも同じではありません。公式な雇用制度の外側に、非公式な雇用、短期契約、自営業などが存在する場合もあります。反対に、規制が弱い国でも、企業の中核的な従業員が実際には手厚い福利厚生を受けていることがあります。

さらに、雇用が増えるかどうかは、労働市場の制度だけで決まるわけではありません。経済成長、産業構造、労働力人口の変化、女性の就業機会、教育制度なども重要です。

したがって、雇用問題を解決するためには、規制を一律に撤廃するのではなく、どのような規制がどのような効果をもたらし、どのような制度と組み合わせれば望ましい結果を得られるのかを考えなければなりません。

労働組合が強くても、調整ができなければ問題が起きる

労使交渉と経済全体の成果との関係を説明する考え方として、エスピン=アンデルセンは「ハンプ・シェイプ曲線」に関する議論を紹介しています。

これは、労働組合の強さと交渉の調整機能の組み合わせによって、経済的な成果が異なるという考え方です。

労働組合が非常に弱い場合には、市場の力が優勢になり、企業は賃金や雇用を柔軟に調整できます。ただし、その結果として所得格差が拡大する可能性があります。

反対に、労働組合が強く、全国的な交渉や組合間の調整も機能している場合には、労働者の権利を守りながら、経済全体の制約を考慮した賃金交渉を行いやすくなります。

問題が生じやすいのは、労働組合が強い一方で、組合間の調整が十分に機能しない場合です。それぞれの組合が自分たちの利益を優先して賃金の引き上げを求めると、経済全体の生産性や企業の支払い能力との間にずれが生じる可能性があります。

つまり、重要なのは労働組合の強弱だけではありません。労働者が交渉力を持つことと、その交渉力を社会全体の合意形成につなげることの両方が必要なのです。

4. 戦後の完全雇用は、なぜ実現できたのか

農業から工業への移動が生み出した雇用

戦後の先進諸国では、農業に従事していた人々が大量に都市へ移動し、製造業や建設業、販売業などで働くようになりました。

農業の機械化や生産構造の変化によって、農村では以前ほど多くの労働力を必要としなくなりました。一方、戦後復興と経済成長によって工業製品への需要が拡大し、工場や建設現場、流通部門では多くの労働者が必要とされました。

このように、農業から流出した労働力を、拡大する工業部門などが吸収することで、社会全体の雇用を増やすことができました。

戦後の経済成長を支えたのは、単なる生産能力の拡大だけではありません。貿易の拡大、大量消費の進展、住宅建設、教育機会の拡大、福祉国家の形成などが互いに結びつき、雇用と需要をともに拡大させました。

仕事が増えれば所得が増え、所得が増えれば消費が拡大します。消費が拡大すれば、企業はさらに生産を増やし、新たな労働者を雇用します。この循環が戦後の経済成長を支えました。

重要なのは、農業から工業への移動が、単に働く場所を変えるだけではなかったということです。農業社会の家族や地域を中心とした生活から、企業に雇用され、賃金を得て、商品や公共サービスを利用する生活へと、社会全体が変化していったのです。

男性稼ぎ主モデルが雇用を支えていた

戦後の完全雇用を考える際には、家族のあり方も重要です。

当時の多くの社会では、男性が一家の主な稼ぎ手として働き、女性は結婚や出産を機に仕事を辞め、家事や育児を担うという家族モデルが広く受け入れられていました。

このモデルのもとでは、女性の労働力が市場に大量に供給されることはありませんでした。農業から流出した男性たちが工業部門などで働き、家族を養う賃金を得ることができれば、世帯の生活は比較的安定しました。

女性の家庭内労働も、社会の経済活動を支える重要な役割を果たしていました。家事、育児、高齢者の世話などが家庭内で行われることで、企業や公的機関が提供しなければならないサービスの需要が抑えられていたからです。

ただし、こうした仕組みは、女性の就業機会を制限し、家庭内の無償労働を女性に集中させるものでした。男性の雇用と賃金を中心に組み立てられた社会は、女性が家庭にとどまることを前提に成立していたのです。

戦後の完全雇用は、経済成長によって実現しただけでなく、当時の人口構成や家族モデルによっても支えられていました。

福祉国家と教育制度も、労働力の移動を支えた

農業から工業への移動が比較的円滑に進んだ背景には、福祉国家や教育制度の発達もありました。

教育の普及は、人々が新しい職業に就くための基礎を提供しました。失業や生活上の困難に対する社会的な保障は、経済構造が変化するなかで、人々の生活が大きく崩れることを防ぐ役割を果たしました。

アメリカでは、復員軍人援護法による教育機会の拡大なども、戦後の労働力の再配置に寄与しました。

つまり、産業構造が変化しても、労働者が新しい仕事に移り、生活を維持できるようにする仕組みが存在したのです。

ここからわかるのは、完全雇用を市場の自然な結果とみなすことはできないということです。経済成長、家族構造、教育、福祉国家、労使関係が相互に作用することで、雇用を拡大する社会的な条件が形成されていました。

5. 脱工業化によって、なぜ雇用問題が深刻になるのか

工業の衰退とサービス経済の拡大

戦後の工業社会では、農業から流出した労働者を製造業などが吸収しました。しかし、ポスト工業社会では、製造業の雇用が縮小する一方で、サービス部門が拡大するという変化が起こります。

この変化を「脱工業化」と呼びます。脱工業化とは、製造業を中心とする工業部門の雇用や経済全体に占める比重が低下し、サービス部門の重要性が高まる現象です。

ただし、製造業の比重が低下することは、工業生産そのものが必ず縮小することを意味しません。自動化や生産性向上によって、少ない労働者で多くの製品を生産できるようになった場合にも、製造業の雇用比率は低下します。

一方、サービス経済では、医療、介護、教育、情報通信、金融、流通、飲食、観光など、多様な活動が雇用を生み出します。

問題は、工業部門で失われた仕事と、サービス部門で新たに生まれる仕事とが、そのまま置き換わるわけではないことです。

製造業で働いていた人が、すぐに医療や情報通信などの専門職へ転職できるとは限りません。必要とされる技能、資格、経験、労働条件が異なるからです。

さらに、サービス部門で増える仕事のなかには、高度な専門性を必要とする高賃金の職種もあれば、低賃金で不安定な職種もあります。雇用の総数が増えたとしても、所得や雇用の安定性が改善するとは限りません。

サービス業は成長しても、賃金が上がりにくい場合がある

サービス経済の特徴を理解するうえで重要なのが、生産性の問題です。

工業では、自動化や機械設備の導入によって、一人の労働者が生み出す製品の量を大幅に増やせる場合があります。生産性が高まれば、企業は賃金を引き上げる余地を持ちやすくなります。

一方、介護、看護、教育、接客などのサービスでは、人間が直接関わる時間そのものがサービスの質を左右することがあります。介護職員が一人の高齢者に必要なケアを提供する時間を、工場の機械のように際限なく短縮することはできません。

こうした領域では、生産性の向上に限界がある一方で、人件費や設備費などのコストは上昇します。経済学では、こうした問題を「コスト病」と呼びます。

たとえば、介護サービスの質を維持するために一定数の職員が必要だとしましょう。一般物価や他産業の賃金が上昇しても、介護の提供時間を大幅に短縮できなければ、介護サービスのコストも上昇します。

ところが、利用者が支払える料金や公的な報酬には制約があります。十分な財源が確保されなければ、事業者は賃金の引き上げや人員配置の改善を実現しにくくなります。

その結果、サービス部門で雇用が増えても、労働者の賃金が十分に上昇しない可能性があります。

これは、サービス経済が成長すれば自然に豊かな社会が実現する、という単純な見方に対する重要な反論です。サービスの需要が増えることと、そのサービスを担う労働者の生活が豊かになることは、同じではありません。

女性の就業拡大が、労働市場を大きく変えた

ポスト工業社会への移行を理解するうえで、もう一つ重要なのが女性の就業拡大です。

戦後の工業社会では、男性が賃金労働を担い、女性が家庭内の無償労働を担うという分業が広く存在していました。しかし、女性の教育水準が高まり、就業への希望が強まり、サービス部門での雇用機会が拡大すると、女性の労働市場への参加が進みました。

この変化は、単に働く人の数が増えたということではありません。家族の所得構造、家事や育児の分担、社会保障のあり方、サービスへの需要などを根本的に変えるものでした。

女性が家庭内で担っていた仕事の一部が、保育所、介護施設、家事支援、外食などの有償サービスによって提供されるようになれば、新たな雇用が生まれます。

一方で、女性が働くようになっても、家事や育児、介護の負担が十分に再配分されなければ、家庭内での負担が重くなります。また、サービス部門で女性の雇用が増えても、その仕事が低賃金で不安定なものに偏れば、男女間の経済格差が残る可能性があります。

このように、女性の就業拡大は、労働供給の増加であると同時に、社会全体の需要と生活構造を変える変化でもあります。

雇用問題は、規制の強さだけでは説明できない

脱工業化によって雇用問題が深刻になる理由について、エスピン=アンデルセンは、労働市場の規制だけに原因を求めることの限界を指摘します。

戦後の農業から工業への移行では、製造業などの雇用拡大が労働力を吸収しました。これに対して、ポスト工業社会では、製造業の雇用が減少するなかで、女性の就業拡大や人口構成の変化などによって、仕事を求める人々が増えました。

サービス部門は成長しましたが、その雇用の内容や賃金水準は工業部門と異なります。したがって、サービス部門の成長だけでは、すべての労働者に安定した雇用と十分な所得を提供できるとは限りません。

ここで重要なのは、雇用の需要と供給の両方を見ることです。

企業がどれほど多くの仕事を生み出すかだけでなく、どのような人々が働こうとしているのか、どのような技能が求められているのか、家族や福祉国家がどのように労働者の生活を支えているのかを考える必要があります。

雇用問題は、企業が採用を増やせば解決するという単純な問題ではありません。産業構造、人口、ジェンダー、家族、教育、労働市場制度が相互に関係する社会的な問題なのです。

6. 民主的な階級闘争を、ポスト工業社会から考え直す

工業社会の階級構造は、そのまま残るわけではない

戦後の工業社会では、製造業の標準的な生産労働者が、経済と政治の重要な担い手でした。安定した雇用と賃金を得る男性労働者を中心に、家族の生活が組み立てられ、労働組合や福祉国家がその生活を支える仕組みが発達しました。

しかし、ポスト工業社会では、この構造が大きく変化します。

製造業の雇用が縮小する一方で、専門職、技術職、事務職、販売職、個人サービス職など、多様な職業が重要になります。女性の就業も拡大し、男性一人の賃金によって家族を支えるモデルから、男女双方が働くモデルへの移行が進みます。

その結果、労働者の利害は以前よりも多様になります。

高度な技能を持つ専門職、安定した企業に勤める労働者、低賃金のサービス労働者、不安定な契約で働く人々では、雇用や所得に関する問題が異なります。女性と男性でも、仕事と家庭生活の両立、昇進機会、所得、社会保障へのアクセスなどに違いが生じる可能性があります。

こうした状況では、工業社会を前提にした労働者階級の組織や政治運動だけでは、社会全体の利害を十分に代表できなくなるおそれがあります。

階級対立は消滅するのではなく、形を変える

ポスト工業社会では、階級の重要性が薄れていくという見方があります。知識や技能を持つことが重要になり、職業の専門化が進めば、従来の階級区分は意味を失っていくという考え方です。

しかし、エスピン=アンデルセンの議論からは、別の見方が導かれます。

経済構造が変化すれば、階級を形成する条件も変化します。工業社会では、製造業の雇用や男性稼ぎ主モデルが重要な役割を果たしていました。ポスト工業社会では、サービス部門の雇用、女性の就業、教育、福祉国家の制度などが、階級的な地位や生活機会を左右するようになります。

たとえば、同じように働いていても、専門的な技能を持ち、継続的な雇用と高い所得を得られる人と、低賃金の仕事を転々とし、失業のリスクを抱える人とでは、生活の安定性に大きな差があります。

また、家庭でのケアを担うために就業を中断した人は、継続的な職歴を前提とする年金や社会保障制度のもとで、不利な立場に置かれることがあります。

つまり、階級の問題は、工場労働者と資本家の対立だけでは捉えきれなくなっています。労働市場での地位、教育、ジェンダー、家庭内の役割、福祉国家による保障などが組み合わさり、新しい格差を生み出しているのです。

平等と雇用を両立させるには、制度の組み合わせが重要になる

ポスト工業社会が直面する大きな課題は、雇用を増やすことと、労働者の生活を守ることをどのように両立させるかという問題です。

雇用を増やすために労働市場の規制を大幅に緩和すれば、企業が採用しやすくなる可能性があります。しかし、それだけでは賃金格差や雇用の不安定化が進むかもしれません。

反対に、既存の労働者の雇用と権利を強く保護しても、新しく労働市場に入る人々が仕事を得られなければ、社会全体の平等は実現しません。安定した雇用を持つ人と、雇用機会から排除された人との間に格差が生まれるからです。

したがって、必要なのは、労働者の権利を守ることと、労働市場への参加機会を広げることを組み合わせる仕組みです。

教育や職業訓練によって新しい仕事に移る機会を確保し、失業時の所得保障によって生活を支え、育児や介護を担う人も働き続けられるようにすることが重要になります。

また、労働組合や使用者団体、政府が社会全体の課題を共有し、雇用や賃金について合意形成を行うことも必要です。

民主的な階級闘争の意義は、階級間の利害対立をなくすことではありません。異なる利害を持つ人々が、制度を通じて交渉し、社会全体として受け入れられる解決策を見いだすことにあります。

7. 結論――ポスト工業社会の平等は、制度によって形づくられる

民主的な階級闘争を再検討することで見えてくるのは、社会の平等や雇用の安定が、経済成長だけによって自動的に実現するものではないということです。

戦後の工業社会では、製造業の拡大、労働組合の発展、福祉国家の整備、男性稼ぎ主モデルなどが相互に結びつき、雇用と生活の安定を支えていました。階級間の対立は消滅したのではなく、労使交渉や社会保障などの制度を通じて調整されていたのです。

しかし、脱工業化とサービス経済の拡大、女性の就業増加、人口構成の変化などによって、従来の仕組みは大きく変わりつつあります。工業社会の労働者を中心に構築された制度だけでは、多様化する雇用や家族のあり方に十分対応できない可能性があります。

そのため、ポスト工業社会では、労働組合の強さだけでなく、交渉の調整機能、福祉国家の普遍性、労働市場への参加機会、家族を支える社会サービスなどを総合的に考える必要があります。

この議論から導かれる重要な視点は、平等と雇用は必ずしも対立するものではなく、制度の設計と組み合わせによって両立の可能性が変わるということです。

市場に任せれば効率性が高まる一方で格差が拡大する、あるいは労働者を保護すれば雇用が減るという二者択一だけでは、ポスト工業社会の課題を十分に理解できません。

労働者の生活を保障しながら、新しい産業や職業への移動を支え、女性を含む多様な人々が働ける環境を整えること。そして、個々の労働者や企業の利害を社会全体の合意形成につなげること。それが、民主的な階級闘争を現代的に捉え直すうえでの重要な課題です。

工業社会の終わりは、階級や平等の問題の終わりではありません。むしろ、社会の構造が変化するからこそ、誰が雇用の機会を得られ、誰が経済成長の成果を享受し、誰が生活上のリスクを負担するのかという問題を、改めて問い直す必要があるのです。